日本実存療法学会のご案内

  

新しい世紀のなかで、世界の医療の趨勢(メガトレンド)は確実に、全人的医療(comprehensive medicine)に向かっています。

本学会は、全人的医療の核となる人間の実存性について、それをいかに健康の創成や医療に展開して行くべきかを模索するために1993年に設立されました。本学会の学術大会は、この目的のため内外の権威者が集合し、情報を交換し、新しい展望を求めることを目的に開かれてきました。

こうした全人的医療の考え方は、今日、世界的にも一般的になってきています。新しい医療を模索する動きは、米国・英国・フランス・ドイツ・スイス・オーストリア・北欧・イスラエル・ポルトガル・中国・台湾・ブラジルといった多くの国々に起こっています。私たちはこうした新しい医療を模索する動きを全人的医療という患者中心医療の中に包括して行くことに努力してきましたが、幸いにもこの考え方には世界各国の識者たちが賛同し、模索の結果として集約されるようになってきました。全人的医療はヒポクラテス以降、求められてきた医療本来の姿でもあると言えましょう。

全人的医療の基本的哲学は、患者をいかに身体・心理・社会・実存的存在として理解するかにあり、その具体的方法は現代医学的方法、伝統的東洋医学的方法、心身医学的方法を相互主体的に鼎立するところにあります。これはそれぞれの医学的方法の適応と限界を熟知したなかで初めて可能と言えましょう。言わば、全人的医療は、各医学的方法論のハーモニーの上に成り立ちます。

わが国(日本)は古来より、こうしたさまざまな医学方法論に対して寛容であり、現代医学においても、伝統的東洋医学においても、また心身医学においても十分な蓄積があります。また医療保険上もこれらすべての方法が認められており、多くの医師が日々の医療のなかで実践しています。

さて、全人的医療の核になる概念は「今、ここ」に生きている人間の実存性への畏敬であります。それは、ビクトール・フランクル博士(Frankl,V.E.:1905〜1997) が、第2次世界大戦のさなか、アウシュビッツの収容所での体験から学び取った哲学であり、同時に実践であります。

フランクル博士の偉大さは、自らの極限状態での体験を、従来の精神分析を一層発展させた学問、「実存分析(ロゴセラピー)」として完成させたところにあります。その学問の本質は、人間には、他の動物と共通の「心理」より、もっと高次元の「精神」機能があり、その機能を発現させることにより、自らの自由意思に基づいた責任のある決断を行い、その人固有の人生の意味や価値を追求しうる存在、すなわち「意味への意思」を発動することのできる存在と見るところにあります。

1996年、ギリシャのコス島(医聖ヒポクラテスの生誕地)で開催された「第1回医療オリンピック(Medical Olympiad)」で、フランクル博士はその最高賞である「ヒポクラテス賞」を授与されました。

我々は第1回日本実存心身療法研究会(1993年)で、フランクル博士を日本にお招きし、臨床実践者との交流を果たし、その考え方、具体的アプローチの方法を公開し、新たな展望を構築することに成功しました。

この領域での学問のさらなる進歩が期待され、日本実存心身療法研究会が結成され、2003年には日本実存療法学会と名称・組織の変更を行いました。本学会は人間の本質の理解、全人的医療に大きく貢献することが望まれています。

医療職ないし医療に関心を持つ多くの方々のご参加をお待ちしています。