2020年1月21日(火)に、バリントグループワークを開催しました。
今回は、鍼灸師による発表です。
症例は、左下半身の坐骨神経の辺りに時々痛みがある、70代女性の患者さんです。
発表者から、患者さんの過去の既往歴、家族歴、生活歴、現在の症状と血行動態などが紹介され、その時々に、フロアから質問や意見、感想が投げかけられました。最後に永田医師から、この症例をどう読み解くかについて解説がありました。
以下に、今回の学びのいくつかをご報告します。
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左半身にだけ症状が出るのはなぜか?
本患者は痛み止めのロキソニンが効かないことから、炎症による痛みではない。右半身と左半身とで血行動態が違う可能性がある。通常は、片側の上腕で血圧計測するが、この患者の場合、反対側の上腕、そして両足首でも血圧測定するとよい。
ゴルフが身体に与える影響と動脈硬化
ゴルフの特徴の一つは、スイングする際に、利き手と反対側の足に体重がのり、片側に過剰に負担がかかることである。この患者は右利きなので、スイング時に左足に全体重がのる。さらに肥満なので負荷が大きい。それを長年積み重ねてきていることが、左足の痛みと関係している。
ゴルフのもうひとつの特徴は、瞬間的な力の発揮が求められるスポーツであること。スイミングやジョギング等のように緩やかに持続的に身体を動かすスポーツとは違って、ゴルフはボールを打つその瞬間に一気に力を爆発させる。そのため、動脈硬化が進んでいる状態で行うと、脳梗塞や心筋梗塞を誘発しやすい。
この患者は糖尿病があり、かなり作用の強い薬が出ていることから、動脈硬化も進んでいることが推察される。
また、KSG(コロトコフサウンドグラフ)は長い台形型、心係数(心拍出量を体表面積で除した値)は5.5リットル、心拍数91で、年齢、身長を勘案すると、異常に血行過剰な状態にある。これは、動脈硬化が進んでいて、身体が必死であがいていることを示している。この状態でゴルフをすることは、脳梗塞や心筋梗塞を起こすリスクがある。
治療におけるアイスブレイクの重要性
本患者は、施術前に10~15分ほど、ゴルフやジムのことなどの世間話をする。この時に治療者がしっかり耳を傾けると、患者はリラックスし、痛みがスーッとひきやすい。短い診察の中にも、アイスブレイクの時間は必要である。これを何度も繰り返すうちに、治療者の顔を見るだけで痛みがひくというパターンが形成されていく。
独身の一人暮らし高齢者が抱える不安と孤独
本患者の心理・社会・実存面については、以下のような仮説が考えられる。
今まで、一人で気丈にがんばって生きてきたし、食事や運動にも気をつけて健康的な生活をしてきたという自負もある。だから、生活習慣について鍼灸師から口をはさまれたくないし、心の内面に踏み込まれたくもない。一方で、痛みが長期化するにつれて、日常生活が不自由になったらどうしようという不安も大きくなっている。安心して頼れる身内やコミュニティもなく、実存的な孤独を抱えているのではないか。毎日のようにジムに通うのは、そんな不安や孤独の裏返しではないだろうか?
だからといって、鍼灸師が無理に相手の心に踏み込んでも、患者は嫌がって受診をやめてしまうだろう。患者自身が、自ら悩みを語り始めるのを待つほうがよい。大事なことは、その時に治療者がどう対応できるかということである。その人が必要とする専門家につなげられるように、治療者は日頃から人的ネットワークを構築しておくことが重要である。
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報告は以上です。
他にも多くの学びがあり、充実した時間となりました。
ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
次回は、2月18日(火)です。
時間:19~21時
場所:(公財)国際全人医療研究所 多目的ルーム
※参加者募集中(要事前申込み)