御 挨 拶
第12回国際全人医療学会
大会長 杉岡 良彦
京都府立医科大学大学院 医学研究科 医学生命倫理学 准教授
医学部医学科 人文・社会科学教室 准教授(医学哲学)
この度、第 12 回国際全人医療学会を 2025 年 10 月 5
日に開催する運びとなりました。第1回の国際全人医療学会は、1993年のビクトール・フランクル博士の来日を機に、故永田勝太郎博士によって結成されました。フランクルの研究者は日本でも何人もおられますが、永田先生はウィーンのフランクルのもとを何度も訪問し、直接教えを請い、またフランクルの訪日も実現されました。そして永田先生はフランクルの実存療法(ロゴセラピー)を、実際の臨床の場で生かし、全人医療の重要な方法論として位置づけ、研究・臨床・教育を絶えず行ってこられました。
本年2025年はフランクル生誕120年の記念すべき年となります。この記念すべき年に開かれる本学会では、再度フランクルの思想を問い直すとともに、実存療法に基づきながら、臨床現場で具体的にどのように全人医療が可能であるのかを実践的な観点からも皆様と考えてみたいと思います。
医学は単なる真理の探究で満足する学問分野ではなく、実際に苦しむ人を前にして、その人たちに手を差し伸べる実学です。誰もが、病気にならず健康でいたいと願いながら、人生には病気をはじめ様々な困難が待ち構えています。フランクルは、すべての人には無条件で生きる意味があるのだと力強く訴えましたが、そのことは苦悩においても例外ではありません。彼は苦悩にも意味があるとし、人間を「苦悩する人間」と理解しました。つまり、人間は苦悩することが「できる」のだと、苦悩に積極的な意味を見出したのです。そして、フランクルも永田先生も困難の中にあっても「生きる意味」を見出すことが「できる」という「希望」を医療現場で繰り返し訴え、患者さんを力づけておられました。
日本医師会による2022年の新しい「医の倫理綱領」では、医学が「治療困難な人を支える医療、苦痛を和らげる緩和医療も包含する」ことが明記されましたが、この医学を実践するうえでフランクルの苦悩理解、そして希望という概念は大きなヒントを与えてくれます。
一方、全人医療あるいは全人的医療の必要性は、現代医学の中でも多くの人々がその必要性に気づいています。例えば医学教育における全人医療の重要性がうたわれ、かかりつけ医が全人医療を担う必要性も主張されますが、実際のところ、全人医療はどのようにして実践可能であるのかはいまだ模索されている状態といえます。
全人医療を掲げる本学会の第12回大会では、フランクル生誕120年を記念し、苦悩の意味、医療における希望の意味、実存療法、そしてフランクルの思想を再度学びあい、深め日々の医療実践やそれぞれの生き方を見直す場となることを願っております。
(2025年1月)